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結核とIGRA [感染症・感染制御・検体検査]

結核とIGRA

はじめに
本邦における結核罹患率は人口10万人対比16.7人であり、先進国の中でも高く、「中蔓延国」にあたります。
結核感染者のうち発病するのは10%程度で、この状態を「潜在性結核感染症(以下LTBI)」と呼び、この数は年々増加傾向にあります。なかでも、高齢者、糖尿病患者、透析患者、免疫抑制作用のある薬剤(抗がん剤、TNF-α阻害薬、ステロイド薬など)の投与患者、消化管手術後の患者、HIV感染者などはハイリスク群であり特に注意が必要です。※
LTBIは、適切な治療により、発病を50%以上防ぐことができます。そのためには、LTBIの早期発見のための診断が不可欠です。
※潜在性結核感染症治療指針 結核2013:88:497-512

検査法の発展
活動性肺結核の場合は、所見や画像診断検査および喀痰塗抹培養検査などにより確定診断をすることができます。一方、潜在性結核感染症の場合は、従来ツベルクリン反応(以下ツ反)を行って確認していました。しかしながら、本邦においては多くの国民がBCG予防接種を受けており、偽陽性が出る、ツ反陰性だからといって必ずしも結核罹患を否定できないなどの問題点があります。
近年、Interferon-gamma release assays(以下IGRA)が開発され、対外診断薬として認可され健康保険の適用となり、臨床でも活用されるようになってきました。
本法は、結核菌の特異的な抗原を用いてエフェクターT細胞を刺激して、産生されたインターフェロンγを確認する検査です。特長は、血液検査であること、また、抗原性の違いからBCG接種やほとんどの非定型抗酸菌と影響を受けず、高精度の検査が短時間で可能となったことです。※
※日本結核病学会予防委員会:インターフェロンγ遊離試験使用指針:結核 2014 89,8 : 717_725

医療職におけるLTBIスクリーニングの有用性
LTBI新規登録患者数7,147人のうち32.4%(看護師・保健師1,277人、医師222人、その他医療職820人)を占めており、発症すれば、院内感染のリスクもあり、早期発見と治療が求められています。※
現在第一線で活躍する医師や看護師をはじめとする医療従事者は、結核の既感染率が低い世代であることも重要なポイントです。
そのため、医療従事者における結核スクリーニング検査を行い、ベースライン値を知っておくこと、また定期的に検査を行うことが重要です。同時に、新規入職時にIGRAを実施することも推奨されています。※
※厚生労働省:平成25年結核登録者情報調査年報集計結果(概況)
※結核院内(施設内)感染対策の手引き 平成26年度版より 表「医療機関における職員の健康管理のポイント」

医療従事者の接触者検診
医療従事者が風邪様症状や肺炎などの患者と濃厚接触し、後日結核だったと診断されることがあります。その場合には、接触日に遡って接触した可能性が高い医療従事者や患者および家族に対して、検診を行う必要があります。
検診は、接触回数や行った処置などに応じて、リスクが高い人から優先順位をつけて行います。
平成25年に全国で新規登録された結核患者数は20,495人、うち看護師・保健師234人、医師66人、その他医療職281人であり全体の約3%を占めていました。※
結核菌が体内に入ってからIGRA陽性となるまで、約8~12週間程度とされています。従って、検査は結核患者との最終接触から8週間以上経過してから行う必要があります。
この時、判定のために最も重要なのが、本人のベースライン値です。この値が陰性で、今回接触者検診で陽性となれば治療を検討することになりますが、ベースライン値が無い場合は過去感染の可能性が否定できません。※
※感染症法に基づく結核の接触者健康診断の手引き 平成 26 年(2014 年)3 月 「改訂第5版」

関節リウマチ(RA)患者と結核
RA患者は、薬物治療の修飾や疾患による免疫低下により感染症に罹患するリスクが高いことが知られています。更に近年TNF阻害薬などRA治療に生物製剤が利用されるようになり、結核感染のリスクが高くなってきました。
このため、RA治療開始前にIGRAを実施し、ベースライン値を得た上で生物製剤の投与を開始することで、治療時における結核発症の早期発見早期治療を開始できます。
本邦におけるTNF阻害薬使用ガイドライン※においても、生物製剤使用時の注意事項として以下のような記述があり、IGRAについて強く推奨されています。
「スクリーニング時には問診・インターフェロン-γ遊離試験(クオンティフェロン、T-SPOT)またはツベルクリン反応・胸部X線撮影を必須とし、必要に応じて胸部CT撮影などを行い、肺結核を始めとする感染症の有無について総合的に判定する。」
※社団法人日本リウマチ学会 関節リウマチ(RA)に対するTNF阻害薬使用ガイドライン (2014年6月29日改訂版)

透析患者と結核
透析患者は免疫が低下していることや、糖尿病を基礎疾患としている人、高齢者、低栄養状態の人が多く、また肺外結核が多いといった特徴がある集団です。更に、多くの患者が同一室内で長時間の透析治療を行うため、一人でも発症すれば院内での感染も高リスクとなります。疫学調査によれば、透析患者の結核発症率は2~6%と報告されています。※
従って、透析導入前のスクリーニング検査としてIGRAを実施してベースライン値を得ておくことが推奨されています。※
これにより透析患者の結核感染の有無のみならず、接触者の追跡や同室患者や医療従事者の早期検査などの対処が可能となります。
※安藤亮一:透析患者における結核の現状と問題点.結核:2011:86:950-953 他
※日本結核病学会予防委員会・治療委員会,潜在性結核感染症治療指針.結核:2013:88:497-512

T-SPOT検査
ここまで記したように有用性の高いIGRAの代表的な方法のひとつであるT-SPOT法について簡単に概要を説明します。
T-スポット○R.TB検査は、患者血液から末梢血単核球を分離し、細胞数を標準化後、結核菌特異的抗原(ESAT-6、CFP10)を添加してIFN-γを産生した細胞をカウントする方法(ELISPOT法)です。
高感度・高特異度で結核感染を診断できる検査法※であり、汎用ヘパリン採血管1本(6mLまたは8mL)で検体採取が可能であるのが特長です。また採血後最長32時間の室温(18~25℃)保管が可能であるため、輸送条件や患者の来院時間などの制限が少ない検査方法です。
※オックスフォードイムノテック株式会社 T-スポット[レジスタードトレードマーク].TB 製品添付文書 2014年11月改訂(第6版)

おわりに
結核感染症は過去の疾患ではありません。基礎疾患の有無だけでなく高齢化や貧困による低栄養など経済状況も少なからず罹患に影響します。BCG未接種の医療従事者も少なくない昨今、院内における職員への教育啓発がとても大切です。
IGRAが、高度医療を提供する急性期だけでなく高齢者医療施設、透析医療施設、RA治療を行う整形外科クリニックや呼吸器専門クリニック、健康診断施設、保健所などにおいて幅広く活用され、きっかけになることで、結核感染症対策が一層進展することが期待されます。

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