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臨床検査技師についての記事(転載) [検体検査]

臨床検査技師のあり方について考えさせられる記事でしたので転載します。 

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臨床検査技師とプロフェッショナリズム

この原稿は医学のあゆみ 244(2): p193-195, 2013.に掲載したものです。

藤田保健衛生大学医学部病理学教授
病理専門医 
堤 寛(つつみ ゆたか)

2013年2月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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病院という職場は、国家資格をもつ人材の集合体である。そこで働く臨床検査技師は、医師、看護師、薬剤師とともに、「士」でなく「師」のつく、由緒ある国家資格である。ところが、現在、臨床検査技師が置かれた状況は、異常事態といえる側面を有している。
臨床検査技師とともに長く仕事をしてきたおかげで、臨床検査技師の置かれた切ない立場を共有・共感する場面が多い一病理医として、問題点を正面から捉えてみたい。

【臨床検査技師の抱える問題点】
1. 昭和33年7月に施行された臨床検査技師法(臨床検査技師等に関する法律)で、臨床検査技師は名称独占にとどまり(第四章第二十条)、業務独占していない。臨床検査技師の業務として法律上に記載されているのは、採血と生理検査だけである(第四章第二十条の二)。看護師はもちろんのこと、無資格者が臨床検査技師と同じ仕事をしても実は違法でない。いいかえれば、「ニセ技師」が公認されている!無資格の人を雇用して、あるいは学生アルバイトを雇って、検体検査を実施する衛生検査所(検査センター)があるのは紛れもない事実である(さすがに、病院ではそのようなことはないだろう)。
2. 臨床検査技師法で、臨床検査技師は医師あるいは歯科医師の「指示」に従って業務を行わねばならない(第一章第二条)。つまり、医師の言うことを素直に聞く技師がもてはやされる。指示されたことはきちんとするが、言われないことはやらないのが原則。勉強不足の医師による不適切な検査オーダーは適切に修正するのがプロの技師の仕事のはずなのに!
3. 臨床検査技師は、現行の医療保険制度の中で単独で1円も稼げない(検査の診療報酬はすべて医師に帰属する)。看護師も薬剤師も、比較的新しい国家資格である歯科衛生士でさえ、自力で保険点数をとれるように変わってきているのに!
4. 旧帝大系(北大、東北大、名大、京大、阪大、九大)や筑波大などの由緒ある(医学部)保健学科(臨床検査技師を育てるはずの学科)を卒業した学生の多くは、臨床検査技師の国家試験を受験しないし、合格しても臨床検査技師として現場で働かない(研究職に就いて、自由度とよりよい給与をめざす人材が多い)。これら保健学科の教授には医師が多いのが現状。臨床検査技師を育てる学科なのに、どうして臨床検査技師が教えないのだろう? 現在の臨床検査技師教育は“科目承認制”であり、「臨床検査技師教育を専門に教育機関」である“指定校”は、平成24年1月に承認された神戸常盤大学1校に過ぎない。その最も大きな理由は、指定校にすると教員籍に専門職教員(臨床検査技師)を配置する義務が生じる点にある。現教員の「既得権益」の問題に加えて、教員資格(学位)をもつ臨床検査技師が足りないことも現実である。
5. 「看護部長」「薬剤部長」は独立した職業単位で、部門長は看護師と薬剤師であるのが常識である。それに対して、技師長の上には必ず医師の検査部長がいる。システム上、対等感がないし、依存体質をつくる温床となっているかもしれない。
6. 同様の差別化は、医学部、歯学部の卒業生に加えて、厚生労働大臣指定の5科目の単位を追加取得した獣医学部、薬学部の卒業生(いいかえれば、各国家資格の不合格者)に、臨床検査技師の国家試験の受験資格を与えられる規定(臨床検査技師法第三章第十五条の二)にも象徴的に表れている。さらに、理学部、工学部、栄養学部の卒業生に対しても、厚生労働大臣指定の上記5科目を含む計17科目の単位を取得すれば、臨床検査技師に挑戦できる(臨床検査技師等に関する法律施行令第二条第三号)。多様な分野からの人材育成が大義名分なのである。
7. このような矛盾だらけの現状を、教育機関は学生たちに伝えない。学生たちも議論しない。教育機関は、医師や歯科医師の言うことを素直によくきく技師を育てようとしているのだろうか?

このままでは、臨床検査技師の国家資格は無用の長物と言われても仕方ない側面がある。臨床検査技師は、名大や京大の医学部保健学科卒業生がぜひなりたい職業であり、魅力あるしごとをする職能集団であってほしい、と私は強く願う。

【問題解決に向けて】
問題解決に向けて、臨床検査技師諸氏に自覚し、実践してほしい点をまとめる。
1. 国家資格とは、国家が認めた本物のプロに与える特別重要な資格であるはず。臨床検査技師のあるべき姿をまず仲間同士で熱くディベートしてほしい。
2. 少しでも多くの臨床検査技師が大学院に進み、学位(修士、博士)を取ってほしい。医師と同等の学歴がある意味重要である。たくさん論文を書いてほしい。できれば英文で! そして、大学(医学部保健学科)の教授に値する実力をつけた人材が豊富な状況をつくってもらいたい。四大卒のみならず、専門学校や短大卒でも、社会人大学院に入学できるしくみがあるので、若い臨床検査技師諸氏は、ぜひ働きながら学位をとってほしい。臨床検査技師教育の「指定校」認定に必要な学位をもつ専門職教員が増えないと、事態はなかなか進展しないだろう。
3. 臨床検査技師としての実務をやりながら、教育機関で教えられる医学部のような仕組みをつくることも重要、と私は考える。現在は、病院で働く臨床検査技師と学校の教員は別々に分断されている(事情は、看護学部や薬学部でもほぼ同様)。業務と教育の両立は実際にはたいへんだろうが、現場の生き生きした体験を学生に伝えられるメリットが大きい。医学部教育の悪い点は捨てて、よい点をぜひ盗みとってほしい。
4. 最終的には、臨床検査技師法の改正を提言する。「医師の指示のもとに」→「医師と協力して」。もう一つ、医師がオーダーした検査の質をチェックして、適正な検査を目指す(薬剤師法第四章第二十四条「薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない」に準じた規定)。

これら目標を達成するために、各医療施設で、臨床検査技師がすぐにでもできる具体策をあげてみよう。臨床検査技師がいてよかった、さすがだ! という場面をつくるようにみんなで日々努力する。つまり、付加価値の高い(臨床検査技師にしかできない)仕事をする・生かすことに尽きる。若い人材からの提案・提言が大切だ、と私は信じる。

【臨床検査技師がすぐにできる具体策】
1. 各病院で、検査結果、検査のやり方、リスク・目的などを臨床検査技師が丁寧に説明する「検査相談窓口」をつくり、臨床検査技師全員でまわりもちで必要な人・希望者にわかりやすく説明する。医師の負担が軽減され、きっと、患者さんからも好評でしょう。患者さんによる臨床検査技師の味方・応援団をつくろう!
2. 技師が医師のオーダーする検査の適正さをチェックする“院内の”しくみをつくる。不要な検査を減らして、医療費削減につながるでしょう。
3. 血液・細菌・細胞診、生理検査はもちろんのこと、血清・生化学、外来検査、緊急検査などの各検査に、可能な限りの解説を付記する。現状では、検査報告書のコメントが不十分である。“医者ならわかるはず”が前提ではなく、わからないかも知れない・わからないと困るが前提で、付加価値の高い報告にしてほしい。たとえば、細菌培養で、多種の菌が培養され、それぞれに耐性検査が行われたとき、どれが原因菌であり、どの薬が有効と考えるべきか、検査技師なりの見解を付記するべきだろう。まず、コメント欄のスペースが少ない(ない)現在の報告用紙に修正が求められよう。
4. 院内で行われるカンファレンスに積極的に出席して意見しよう。
5. 院内感染防止対策、褥創対策、栄養管理対策、医療廃棄物対策、有害物質管理、インフォームド・コンセント管理、患者相談室など、院内のさまざまな活動に参加し、臨床検査技師としての役割を果たそう。できれば、特定化学物質等作業主任者、医療環境管理士、あるいは医療相談員といった資格を積極的に取得して、院内の指導的立場に立つことをめざしてほしい。
6. がんの病理診断がでているけれど、患者さんが再来院しない場合が相当数ある。これらケースを月ごとにまとめて、担当医に報告し、病院から患者さんに来院をすすめるようにする。
7. ホームページに検査に関するQ&Aコーナーをつくるなど、臨床検査技師ならではの情報提供に努める。
8. 検査に関する院内セミナーや講演会を患者さん向けに開催するのもいいだろう。患者会活動に積極的に協力するのも一つの方法である。技師としての知識や経験を生かして、地元のボランティア活動を行いたい。こうした地域への外向きの貢献は、プロとしての仕事の衆知・広報につながる。
9. 趣味(音楽、スポーツ、囲碁・将棋、写真・絵画、俳句・川柳、園芸・生け花など)を生かした、院内アメニティー改善の提案・実践をする。

臨床検査技師のプロ意識をより高める・本物にするにはどうしたらいいか、まず、仲間同士で議論してほしい。とくに、若い人材の力・問題意識が重要であることは論を待たない。本物のプロの臨床検査技師とはなんぞや! ぜひ、解決策を模索・提言してほしい。上に述べた私の提案は一案に過ぎない。
みなさんの「気づき」を共有してほしい。期待しています。応援します。

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皆様からのご寄附をお待ちしております!!出産の際に不幸にしてお亡くなりになった方のご家族を支援する募金活動を行っています。四人のご遺族に募金をお渡しすることができました。引き続き活動してまいります。
周産期医療の崩壊をくい止める会より http://perinate.umin.jp/
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配信・解除依頼はホームページ http://medg.jp/mt/ の「お問い合わせ」からご連絡ください。手続きに数日要することがありますので、ご了承ください。
今回の記事は転送歓迎します。その際にはMRICの記事である旨ご紹介いただけましたら幸いです。
MRIC by 医療ガバナンス学会 http://medg.jp
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